三浦 質問した方は、観客としてすごく感情移入しちゃったんじゃないですか。登場人物を心配するあまり「何か対策ができたのでは」と聞いてみたくなったとか?

鈴木 「本当はこうすればよかったんじゃないか」って、正解を求める気持ちですよね。それも期待の一種なんでしょうか。

 

「ねえ、またママが困ったことになってる」

三浦 すっきりした解決を求めたい気持ちは理解できます。でも人間関係においては、ちょっと危険な姿勢だとも思うんです。なぜなら、「夫婦で話さなかったから危機が訪れた」みたいな因果応報的な考え方は、誰かを責めることにつながるから。そうして落ち度探し合戦をしても不毛なだけ。過去に戻って取り返しがつくなら世の中もっとラクでしょうけど、取り返しがつかないからこそ、「ま、しょーがない」と諦めることもできるわけで。そもそも鈴木さんが演じた夫婦も、危機を回避してたら映画になってないですよね。(笑)

鈴木 うちの娘も、私のドラマを見るたび「ねえ、またママが困ったことになってる」と言うのだけど、「みんなハッピーだったらドラマにならないのよ」と。三浦さんのご本にも、短編小説では危機があってからハッピーな感情に向かうと物語が動くとありましたね。

三浦 ことさらドラマティックだったり波瀾万丈でなくていいから、人の気持ちが動く瞬間を小説を通して伝えたいと思ってます。

鈴木 それが私たち受け手の心を動かすのでしょうね。

後編につづく