祖母は神妙な面持ちで座っていた。祖父は真っ直ぐに壁を見ていた。
祖父はゆっくりと言った。
「それは」
わたしは、敢えて祖父の方を見なかった。食卓で、みんながそれぞれ違う方向を見ていた。祖父は言った。

「それは、愛新覚羅溥傑だ」

え、誰?
誰ですか?

後で聞いてみると、愛新覚羅溥傑とは、愛新覚羅溥儀の弟で愛新覚羅溥儀とはラストエンペラーのことで、祖父は若い頃、そのラストエンペラーの弟と竹馬の友的な時代があって、それが祖父の自慢であったらしい。その説明を聞いても「だからなに?」という感想しか持てないわたしだったが、愛新覚羅溥傑の話をひたすら続ける祖父に対して、うんうん、とうなずき聞いているのは、祖母だった。

青木さんの祖母と母

そのヒントは祖母にある

84歳で祖父は他界した。それから数年経ったとき、祖母に祖父のどこがよかったかを聞いてみると