出産してわかった《苦しさ》の理由

信田 お母さんとなぜうまくやっていけないのかと植本さんが考えるようになったのは、いつ頃からでしょうか。

植本 24歳で子どもを産んでからです。「どうも母とは気が合わないな」と薄々感じてはいたものの、それまでは深刻に考えていませんでした。

信田 母との関係に苦しむ女性は、自身が母親になったことで問題を認識する場合が多いんです。子育てを始めてから、「どうしてお母さんは私にあんなことをしていたのだろう?」と疑問に思う。

植本 私に一番大きな打撃を与えたのは、出産直後の出来事でした。今年12歳になる長女を産むにあたり、産後の生活を手助けしてほしくて、1ヵ月の予定で広島から上京してもらったんです。

信田 当時、植本さんはご結婚なさっていた。夫が間に入ってくれることも期待したんでしょうね。

植本 そもそも、家族ではない《他人》に頼むという選択肢が、当時の私にはなかったんです。出産前に精神的に不安定な状態だったことも大きくて……。このままでは自分のキャパシティを超えてしまうと感じて、母に助けを求めたんですが、結局は2週間で我慢できなくなり、お願いして帰ってもらいました。私が会ったこともない東京の親戚を、母がうちに呼んだんですよ。突然、「今日、来るから」と言われて。

信田 それはひどい! 勝手に決められてしまった、ということですか。

植本 はい。「絶対にいや」と訴えたら喧嘩になり、私もカッとして襖を破いて──。結局その親戚はやってくるし、一人で大泣きしてしまいました。

信田 2週間、よく我慢されましたね。出産直後で、ただでさえ参っているところに。

植本 それで懲りたはずなのに、私、2人目の出産後も来てもらったんです。長女がまだ1歳半で手がかかりましたし、夫の会社には育児休業という概念もなく、私が煮詰まってしまって……。

信田 うまくいかないかもと思いながら、また母を呼んでしまった、と。

植本 でも、長女が食事をするのをいやがっただけで、「何しよんねッ!」と母が激怒。娘の姿に子ども時代の自分が重なって、胸が苦しくなりました。「お願いだから帰ってください」と土下座して、実質追い出したんです。

信田 つらい記憶が蘇る《フラッシュバック》が起きたのですね。かつてご自身が母親からされていやだったことを、娘にされたということもつらかった。

植本 子育て中、気をつけてはいるものの、実は私自身も母のようになりそうで、怖くなるときがあります。この負の連鎖を、私のところでなんとか止めたいのですが……。