「《書く》ことで、自分の状況を言葉にして外に出すことができますね。母への思いを対象化することは、カウンセリングと同じ意味を持ちますから。」(信田さん)

「うるさい!」と初めて母に怒鳴り返した日

信田 お子さんが成長してから、お母さまと絶縁状態になった期間があるそうですね。どんなことが引き金になったんですか。

植本 5年前に広島で仕事があったとき、子どもを連れて実家に寄ったんです。母はちらし寿司を用意して待ってくれていたのですが、子どもたちが食べようとしないことに腹を立て、「もう捨てるッ!」とゴミ箱に料理をぶちまけて大騒ぎ。その瞬間、自分の中で何かがプツンと切れました。

「ああ、いつも母にこういうことをされて、何も言い返せなかったな」って。そこで、「うるさい! 黙れッ!」と生まれて初めて母に怒鳴り返したんです。そのまま子どもたちと実家を後に。母は「もう帰ってこんでええわ!」と叫んでいました。

信田 真正面から対抗されたんですね。母から離れるためには必要なことだったのでしょう。

植本 爽快でした。その後は、夫のがん闘病が始まって母に構うどころではなくなりましたし、メールが来ても放っておきました。

信田 絶縁したあとも、日記にお母さんのことをたびたび書いていたとか。これは書いて消化したいという気持ちもあったのですか。

植本 思いを綴ることで、なんとか息をしているみたいな状態だったと思います。

信田 「書く」ことで、自分の状況を言葉にして外に出すことができますね。母への思いを対象化することは、カウンセリングと同じ意味を持ちますから。