信田 完全に絶縁できなくても、最低限の接触にしたのですね。実際に顔を合わせることはありますか。

植本 ここ5年はいっさい会っていません。3年前の冬に夫が亡くなったとき、葬儀にも来なかったんですよ。夫が死んだことをニュースで知った父から「足元が悪いので行くのはやめます」と連絡があって、香典だけ送ってきた。そのとき、初めて自分の気持ちが尊重されたと感じました。

信田 なるほど、わかりますね。でもなぜ来なかったのかしら。

植本 私は母との間にあったことをすべて本に書いているので、式場に行けば「あれが植本さんのお母さんね」と興味津々で見られるのではないかと警戒したんじゃないでしょうか。そのことがあってから、少し俯瞰して母を見られるようになりました。あの人も気の毒な人生を送っているのかな、と。

 

当分は会わないほうが安全

信田 ご両親やお祖母さまはご高齢ですし、今後、介護や弔事で実家と関わらざるをえない機会が増えるかもしれませんよ。

植本 祖母が亡くなったらどうしよう、と考えることはあります。今はコロナ禍で東京と地方を行き来することが難しい状況ですから、「私は行けない」と堂々と言えるのが正直ありがたい。介護にしても、実家近くに住む兄夫婦がいるので、お任せすることになると思います。一瞬でも母に会えばキュッと距離が縮まってしまいそうで、怖くて会えません。

信田 葬儀などで10年ぶりに会って、自分の名前を親に呼ばれた瞬間、心臓を掴まれたようになり、苦しみが蘇った、という話はカウンセリングでよく聞かされます。当分は会わないほうが安全でしょう。私がよく提案するのは、人を介してのやりとりに徹すること。パートナーや家族に間に入ってもらい、直接話さないようにするのです。

植本 私も電話で話すことは避けています。年に一度、娘たちが夏休みに広島へ遊びに行くときの段取りも、LINEでできますから。

信田 親子の問題は、年齢を重ねれば解決するというものではありません。歳を取れば取るほど、さらに負荷がかかることも。だから、自分の安全・安心感を守るために親と距離を取っていいんですよ。これからは重荷をさらに下ろして、ラクになっていきましょう。