年齢を重ねるほど情報処理が苦手に

具体的な例を挙げて説明しましょう。冒頭の「自分のことばかり一方的に話す」ケースは、認知情報の処理能力の低下が一因と考えられます。

私たちは、外部からの情報を目や耳などの感覚器官から取り込み、脳で処理して理解します。たとえば本を読むことに集中しているときは、ほかの情報を抑制する機能が働き、周りの音は聞こえなくなる。一方、料理をするときは段取りをして同時に3品ぐらい作りますよね。これは注意力を3ヵ所に分配して作業しているのです。

情報の処理には容量があるので、同時に記憶できること、行えることは限られます。歳をとると情報を処理できる量が少なくなり、若いときには同時に3つのことができたのに、2つ、1つと減っていく人もいるのです。つまり老親が一方的にしゃべるのは、自分が話すことに注意を集中しているから。相手の話に注意を向けて受け答えする脳の余裕がないのです。

 

自分の悪口だけは聞こえる理由

人の話を聞かないくせに「自分の悪口だけは聞こえる」老親もいますよね。「耳が遠いはずなのに不思議」と子ども側は思うでしょう。でも、誰でも自分の噂話はよく聞こえるもの。自分に関する情報は脳にたくさん記憶されているので、耳から入ってきたときに記憶と照合して注意が向きやすいのです。お年寄りは物忘れや失敗が増え、子どもに叱られることがたびたびあり、脳に否定的な言葉が記憶されているから特に悪口には早く反応するのかもしれません。

たとえば、危ないから車の運転をやめてほしいと頼んでも、親は「オレは運転が上手だから大丈夫」などと衰えを認めません。本人は強がっているわけではなく自信があるのです。高齢者は積み上げてきた経験があるぶん、「自分は有能で、役に立つ人間だ」という自尊心を強く持っています。

その半面、体の機能が衰え、できないことが増えて情けないと感じることも多い。高齢者は自尊心の強い自分と情けない自分の間で揺れ動いているのです。

特に現役時代に活躍していたプライドが高い人ほど、老いて社会との繋がりが切れ、思い通りにいかないことが重なるとフラストレーションが溜まります。すぐ怒鳴るなど、歳をとるとキレやすくなるのは過剰なストレスが主な原因。感情や理性を司る脳の前頭葉の機能も加齢で衰えるので、怒りを抑制できず、キレてしまうのです。