自律性を損なうと生きる意欲が奪われる

こうした困った親にどう接していけばいいのか考えていきましょう。長寿社会の今は親が老いてからも長くつき合うことになりますから、老親の心の内を理解し、良好な関係を築きたいものです。

そのためにまず心得ていただきたいのは、親の意見や行動を尊重するということ。たとえば母親がテレビの通販番組を見て派手な柄のブラウスを購入したとします。娘の目から見てその買い物が失敗だったとしても、「似合わないわよ! なんでそんな服買ったの?」などと否定してはいけません。これは親の自律性を挫くことになるからです。

自律性とは自分の意思に従って生きるという意味。親が自分で「これが欲しい」と決めて買ったということがまさに自律です。自分が決めたことを自分の思うようにできる。自律が保たれていると、人はやる気が出て意欲も高まります。ですから、子どものいうことを黙って聞く親よりも、ちょっとわがままなくらいのほうがいいのです。

また、高齢者にとっては自尊心がとても大切。失敗を責められたり、否定されたりすることが続くと、自信を失ってガクンと老け込み、なかにはうつ状態になる人も。そのまま認知症へとるながる恐れもあります。「その話、何度も聞いた」といった何気ない言葉も、老親のプライドを傷つけかねないので注意しましょう。

最も親を傷つけるのは、親の生き方や人生に対して批判することです。たとえばずっと専業主婦だったお母さんは、交友範囲が狭く、限られた人間関係しか築いてこなかったかもしれない。そんな人生を「つまらない」と否定してはいけません。誰だって人生を振り返れば、「これでよかったのかな」「別の生き方もあったかもしれない」という後悔はあるもの。老齢になって子どもに指摘されるのは親にとってはショックなことです。

また、私たちはつい人と比べてしまいがち。ご近所に若々しく元気なお年寄りがいると、「うちの母と同い年なのに、どうしてこんなに違うの?」と。でも、高齢になるほど個人差が大きくなるのです。頑固でキレやすいなど、ここで紹介した高齢者の例も、歳をとったらみんながそうなるというわけではありません。

先日、電車に乗ったときのこと。高齢の女性に席を譲ろうと声をかけたら、「私は遊んでいる人間なので、あなたのように働いている人が座ってください」と言われて、こんな気遣いができるお年寄りがいるのだと感動しました。高齢者の一番の特徴は個人差。一人ひとり違うのです。ほかの人と自分の親を比べても意味がありません。