簡単に場所を変えられるのもチェアリングの良さ
とはいえパリッコさんたちが考えたチェアリングは、持ち運びのできる椅子をひょいと担ぎ、できるだけ少ない装備で、飲み物・食べ物も現地調達し、とにかく気軽にできるのが大きな魅力だ。
取材当日も、待ち合わせた駅前のスーパーで「片手でつまむのにちょうどいいんです」という紙箱入りのカツサンドを買い、なるべく冷えた状態で飲むために公園直近のコンビニで缶酎ハイを求めるパリッコさん。集合前に缶ビールを購入していた私は、まだまだ初心者でありました。
ゴミは持ち帰る、荷物を大きく拡げない、子連れのお母さんなどに嫌がられないようにお酒の缶はボトルカバーで隠す。そうした気遣いのためのグッズを、「100均やアウトドアの店で『これは使えるかも』と探すのがまた楽しいんです」とパリッコさん。
場所選びは、「座ったとき、緑や水辺など自然の景色が目に入ると気持ちがいいですよ」とのアドバイス。最初に見つけた芝生の広場も素敵だったのだが、ちょうどそこへ遠足の小学生たちが昼食休憩で集まってきたので別の場所へ移動した。「こうして何かあれば、簡単に場所を変えられるのもチェアリングの良さなんです」。(パリッコさん)
最終的に落ち着いたのは、大きな池を見下ろせる高台。パリッコさんと椅子を並べていざ乾杯、の前に――うわあ、何だろうこの感動! アウトドア用の柔らかな布の椅子は自然と腰が沈み、視線がやや斜め上向きになる。高い木の梢、その上の青空と雲。立ったり歩いたりするときとは違う視界が目の前に広がる。少し視線を落とせば、泳ぐ鴨の後ろに続くさざ波。
「僕とナオさんもチェアリングを始めた頃、川べりで石を投げた波紋を『この様子を永遠に見ていられるね』と話してました。2時間映画を観るといったら構えてしまうけれど、椅子から自然の景色を見ていると2時間あっという間ですよ」
対面ではなく、並んで同じ景色を見て話すのも不思議とリラックスできる。鳥の声、遠くに聞こえる車の音さえどこか心地よい。コロナ禍で自宅にこもりがちだった間の鬱屈も風に溶けていくようだ。