20代のぴちぴちの肌にくすんだドーランを塗って
音楽学校の入試、寮生活の思い出、配属された花組でのさまざまな舞台裏。そうしたエピソードに交え、特に力を込めたのが「おじさん役」をつかむまでの道のりです。
宝塚は、劇団に入るだけでは夢が叶ったことにはなりません。容姿も才能の面でも「凡庸」を自認する私が、役名をもらって舞台に立ち、単独のセリフを言うためにはどうすればいいか。
トップを目指す列には並ばず、キラキラのトップは早々にあきらめ、20代のぴちぴちの肌にくすんだドーランを塗って。2階席からでもわかるような濃いメイクと濃い演技で、他のご贔屓を見に来たファンのオペラグラスを私に向けさせる「視線ドロボウ」のポジションを獲得するまで──この奮闘記は、連載中から「進路に悩む若い人に読ませたい」との感想もいただきました。
東日本大震災当時、トップスターだった真飛聖さんをはじめとする劇団員が、どのような思いで舞台をつとめ、終演後ロビーに出て募金をお願いしていたか。そんなエピソードも大切につづりました。退団後は、さまざまなお芝居やイベントの企画・演出などにも挑戦中。5月まで上演中の『エリザベート TAKARAZUKA25周年スペシャル・ガラ・コンサート』では、歴代キャストの皆さんと舞台に立たせていただいています。
同じ作品でも演じる方や演出によって変わる舞台の面白さに触れるなかで、「いつかは私も宝塚の演出・脚本を」という野望がむくむくと湧き上がっています。今後は舞台の裏からも、皆さんの視線を釘付けにしたいですね。