まるで透明人間と暮らしているような10日間。この間、一人で考えに考え、出した結論は──「こういう生活習慣の人とは老後は一緒に暮らせない」。さすがに気まずい雰囲気に耐えられなくなり始めた夫が私の顔色を窺い始めたころ、私は10日ぶりに口を開き、夫に「離婚しましょう」と冷静に告げました。

幸い、私は過去に長く正社員として働いていたため、当座の生活には困らないくらいの蓄えもあります。そのうえ、年老いた実家の両親も前々から娘との同居を望んでいたくらいです。それを夫も十分承知しており、また私があまりにも冷静に言い放ったので、ただの脅しではないと察したのでしょう。急に顔がこわばり、目にうっすらと涙まで浮かべているではありませんか。

「ごめん。今までのことは謝る」

急にシュンとした夫はポツリと、「バツ2になるのは、イヤだ」。

そう、夫はバツ1です。離婚歴があることは今や特別なことではありませんが、定年後は実家のある田舎に戻ると決めている夫にとって「バツ2」は肩身が狭いのでしょう。外面ばかり気にする親戚に何を言われるか、目に見えています。

だからといって、ここは譲れません。「私は最低限のゴミの分別すらせず、風呂にも入らないような人とは一緒に暮らせない」と、冷たく言いました。

「これからは、言われなくても毎日風呂に入ります。ゴミも捨てるし、家事も手伝う。どうか、今後の俺を見てから決めて」と、涙ながらに訴える夫。人間、本当にすぐに変われるものでしょうか? 50年以上続けてきた習慣を簡単に変えられるとも思えません。けれど、今回は、とりあえず夫の涙を一度だけ信じてみることにしました。

あれ以来、夫は人が変わったよう。帰宅するとそのまま風呂場に直行し、配膳の手伝いや皿洗いも自らするようになりました。先日は遊びに出かける前に掃除機をかけていたのです。同じ人とは思えません。

「あまり無理すると続かないよ」と、私は苦笑する日々。今日も夫の修業は続きます。

 


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