少しでも若いうちに遠くへ行こう

4歳違いの妹とは、札幌と函館に離れて暮らしている。仲の良いきょうだいだったが、妹は独立心が強く、高校を卒業すると札幌の学校へ進学したのだった。それ以来、結婚し家族のつきあいはあるものの、お互いの子どもたちが自立するまでは余裕がなかった。介護をしていた両親が相次いで亡くなり、時間ができたことがきっかけで、隔年で旅をするようになったのだ。

それぞれ地元から飛行機に乗り、観光地で落ち合う現地集合の旅。すでに50代になっていたので、少しでも若いうちに遠くへ行こうと、初めての旅は九州の長崎に決めた。

長崎を選んだのには、理由がある。原爆投下で妻を失い、ご自身も被爆しながらも市民の治療に尽力し、子どもたちを残して亡くなった永井隆博士の『長崎の鐘』『この子を残して』という著書を読んでいたので、どうしても博士の療養所だった「如己堂(にょこどう)」を訪れたいと思っていたのだ。

友人や夫との旅は、旅行会社のツアーに参加するのだが、妹との旅行は行き先を決め、飛行機とホテルだけをおさえ、あとは行き当たりばったり。公共交通機関を使い、自転車を借り、そして自分の足だけが頼り。

まず観光案内所へ行き、希望の観光スポットの効率のよい回り方を相談する。交通の便が悪く移動に時間がかかったり、距離感がわからずひたすら歩いたり。まさに手作り感満載の旅行。苦労した分、心に残り、一つ一つの街並みが今でも鮮明に記憶されている。

長崎への旅は予想以上に充実していて、私と妹は如己堂の前で永井博士の短い人生を思って泣いた。この経験で2人で旅する楽しさを覚えた私たちは、その後も平戸、五島列島、尾道、広島市、津和野、萩、熊野古道、石見銀山へと出かけた。まだまだ行きたいところがたくさん思い浮かぶ。