明るくおしゃべりだった妹に笑顔がない

これまでは旅の行き先を決める時、不思議と揉めることはなかった。2人の好みが似ていて、城下町や異国情緒の漂う街、神社仏閣巡りなど、順番に行き先の希望を言うと、即そこに決まった。

今回はどこにしようかと妹に聞くと、意見や提案もなく、「お姉ちゃんの行きたいところでいいよ」と言う。前回旅の帰途で「次は馬籠に行きたいね」と話したのを思い出し、岐阜県の郡上八幡から中山道の馬籠へ回ることにした。いつもは妹が手配してくれる飛行機のチケットとホテルは私が予約した。こういう時でも旅の形は今まで通りにしようと思った。

ただ最初から心配だったのは、妹が千歳から名古屋の空港まで来られるだろうかということだ。私が函館から乗る飛行機の到着時間が遅いので、先に着いた妹が私を探して待ち合わせの場所を離れたらどうしよう。見知らぬ場所で不安な気持ちになるのではと想像するだけで切なくなる。不安に押しつぶされそうになりながら当日を迎えた。

妹が飛行機に乗ったと甥からメールが入り、私も名古屋行きの便に乗ったが、機内では「無事会えますように」と祈るばかりだった。

名古屋の空港に到着すると、待ち合わせ場所まで走って向かう。見回すと出口の傍らの椅子にポツンと座っている妹を見つけた。しばらく会っていなかったので、その痩せた姿を見た時、安堵の気持ちと同時に頼りなげな様子がたまらなく愛おしく思える。

「待たせたね」と肩を抱いたまま、こみ上げてくる思いをこらえる。すぐに無事会えたことを甥に報告し、いよいよ2人の旅が始まった。

甥からは、妹が自分の病状をどこまで把握しているかはわからないと言われている。だからこの旅行中はいつも通りにしようと決めていたが、電話で話す時はあまり違和感のなかった会話も、一緒にいるとあれっ? と思うことがある。

これまでのように、見たものをなるべく残そうと写真を撮ったり、名所や旧跡に言及したりはしない。私について歩くだけだ。何より明るくおしゃべりだった妹から表情が消え、話をすることはなくなっていた。カメラを向けても笑顔はない。それが病気によるものだと理解していても、逆に哀れさを誘ってつらい。