イラスト:おおの麻里
2025年には、高齢者の5人に1人が認知症になると言われている(2015年厚生労働省発表)。自分に、家族に、変化を感じた時、どう受け止めれればいいのか。川奈さん(仮名、主婦、68歳)は、お互いの子どもが独立した後、隔年で姉妹二人旅を楽しんでいた。ある時、妹の息子から「母さんはもう旅行はできない」と告げられる。理由は、若年性認知症の診断だった。

一番充実していたのは妹との旅

新型コロナウイルスの感染拡大による自粛生活が続き、否応なしにテレビに向かう時間が多くなったが、旅行が好きで、旅番組にチャンネルを合わせるという習慣は今までと変わらない。

私の旅は、1度で3回楽しみが味わえることに醍醐味があった。

楽しみの1つめは、行き先を決めて計画を立てるまでの時間。雑誌などでその土地の観光スポットを探し、名物グルメをおさえ、友人たちへのお土産もチェックしておく。ここで気持ちはもう目的地へ飛んでいる。必要なものや着替えをバッグに詰め、チケットを確かめながら当日を待つワクワク感。

2つめは、いよいよ出発の時。心は遠足に出かける小学生のように期待で胸が膨らむ、あの気分だ。数日間、家事の現実から離れた時間を過ごす。平凡な主婦にとってはまさに夢のひととき。観光スポットの風景に感動したり、土地の方々との温かい交流や親切に胸が躍ったり。名物グルメも心ゆくまで堪能するため、旅に出ると必ず体重が増えるほどだ。食べすぎだとわかってはいるけれど、再び訪れる機会がないと思うと、ついつい欲張ってしまう。

3つめは旅から戻り、そんな夢の記憶も薄れていく頃、テレビの旅番組で以前出かけた観光地が放映された時。まるで自分もまた一緒に観光しているように、一つ一つ確認しながら思い出をたどり、楽しかった旅を反芻する。

そんな楽しい旅を友人や夫としてきた。でも一番充実していたのは妹との旅だ。