「頑張っていきましょう」

この作品の主人公・良子(りょうこ)の夫は、車にひかれて亡くなりました。良子は弁護士を通じて提示された賠償金を受け取らず「ただ本人に謝ってほしい」と懇願しますが、加害者は謝罪することなく亡くなり、願いはかなえられませんでした。

その後は中学生の息子と公営住宅で二人暮らし。経営していたカフェはコロナで潰れ、ホームセンターのパートに加え、風俗店で働いて収入を得ています。

良子が必死に働くのは、収入が低かった夫が浮気してできた子どもの養育費と、夫の父が入っている介護施設費用を捻出するため。息子とは「嘘をつかない」ことがルールなのに、母にも息子にもお互いに言えない隠し事がある。

理不尽なことが起こり、息子から「お母さんはなんで怒らないの」と言われても、けっして怒りを外に出さず、「ま、頑張っていきましょう」が口癖です。母と息子、彼らを取り巻く人たちが、周囲と闘っていくさまを描いていきます。

私は最初から良子という役に共感しました。困っているのに頑なにお金を受け取らず、働きづめの彼女に対して、疑問はなかったですね。風俗嬢という職業も、ほかの仕事に置き換えてみたら、腑に落ちた。愛する子どもを育て、生きるためには、ありうる話だと思いました。

そうせざるをえなかったから、良子はそうしたまでで。私は良子のようにはできないけれど、大好きな人が残した問題を尻ぬぐいすることの幸せってあると思う。たくさんのつらいことはあるけれど、頑張っていれば幸せが来る。そう信じてやっていくしかないから「頑張っていきましょう」なんですね。