「この役をほかの女優さんの手には渡したくないなと思いました。だから生半可な気持ちではできないし、『この役は尾野真千子でよかったね』と言ってもらえる作品にしたかったのです。」(撮影:初沢亜利)
15歳で映画主演デビューを果たし、30歳で朝ドラのヒロインに。その演技力は高く評価され、数々の賞を受賞している。大河ドラマ、映画と作品ごとに輝きを増す尾野真千子さんだが、コロナ禍で仕事をしばらく休もうと考えていたという。その気持ちを一転させたものとは──(構成=樋田敦子 撮影=初沢亜利)

「私は死ぬ気でやる」という強い思い

実は私、昨年、コロナで死ぬのが怖くて、しばらく仕事から離れるつもりでした。まだやりたいことはあるし、得体のしれない病に負けて死にたくない、と思っていましたから。NHK大河ドラマ『麒麟がくる』に出演していましたが、撮影は中断されて、いつ再開できるかもわからない状態。「私は今ここで死ぬわけにはいかないので、仕事はしません」と言っていました。

そこへこの映画『茜色に焼かれる』の企画書が届いたのです。台本を読んでいくと、今撮らなきゃいけない作品だということがわかりました。撮影現場は《密》になるので、自粛が進む世の中の動きには反するかもしれないけれど、今撮って、伝えることに、この映画の意味があると考えた。「この時代」を後世に残すべきだ、と思ったわけです。

と同時に、この役をほかの女優さんの手には渡したくないなと思いました。だから生半可な気持ちではできないし、「この役は尾野真千子でよかったね」と言ってもらえる作品にしたかったのです。

声をかけてくださった石井裕也監督とお仕事をするのは2回目。昔、何かの折にお会いして、酔った私が「私の20周年記念作を撮らせてあげる」なんて、えらそうなことを言ったらしいのです(笑)。私は全然記憶にないのですが。

でもそのことを石井監督は覚えていて、この作品を持ってきてくださった。「尾野さんとやるから生半可なものは持ってきたくなかった」と言われて台本を読んだら、一気に引き込まれて。

この役を演(や)る以上、私も覚悟が必要でした。仕事を受けて、もし現場でコロナにかかって死んだとしても本望だ、くらいの覚悟です。監督の強い意志と私の覚悟。この2つが映画に向かっていきました。

覚悟を決めると気持ちが楽になって、作品にかける熱もどんどん上がっていったのです。体に血が流れていくというか、その役に息を吹き込むというか。これまで以上に役に向き合おう。今までにないものを作らなきゃって……。

奈良にいる両親に「仕事を再開する」と話すと、すごく心配されたんですよ。でも「私は死ぬ気でやるね」と強い思いを伝えました。