父も母も、親らしくあろうと一所懸命だった

さらに時を経て結婚後、ニューヨーク滞在中に通ったコロンビア大学の大学院でオーラルヒストリーを学んだことも、親子の関係修復に役立ちました。

オーラルヒストリーとは、歴史的な出来事の関係者が当時何を考えていたのかを直接聞き取って記録を残すという、歴史研究のための手法で、私は被爆者へのインタビューを研究テーマにしました。両親と歩み寄るためにその手法を利用し、それぞれの話を聞く時間をとってもらったのです。

父が自分の気持ちを伝えるのが下手なのは、愛情を十分に受けて育ってこなかったから。そして、母がネガティブなことばかり言うのは、母自身が親から肯定された経験がなかったから。

両親の育った背景にまで思いを巡らし、理解することができてからは、親子関係は良好です。父も母も、やり方がわからないのになんとか親らしくあろうと一所懸命だったんだろうな、モデルがなくてさぞ大変だったろうな、と今は思います。

自分の家族のことをお話ししたのは、血のつながりって何なのだろう、と思うからです。私は血のつながった両親のもとで育ったけれど、幸せな幼少期とは感じていませんでした。私の家族は、「血縁」でつながっていたとは思わない。私が大人になり、歩み寄って話をするようになり、「ああ、そういうことだったのね」と理解し合うことで、絆が強まっていったのです。もしも「血がつながっているのだから、わかり合えるはず」と血縁だけに頼っていたら、たぶん家族みんなが孤独なままだったでしょう。

今、血のつながりのないハナちゃんを通して、私は父や母が本来持っている人間的な優しさや愛情を感じています。昔は距離を感じていた両親が、特別養子縁組で養子を迎えることに賛成してくれ、こんなに仲良く過ごせていることが、本当にありがたいです。