夫の失職で家のローンが仇に

生まれ育ったのは、田舎の小さな山村だ。実家は農家で、お世辞にも裕福とは言えず、服を買ってもらうことなどほとんどなく、いつも着た切り雀だった。食べるものも自給自足が基本。

家の隣には畑があり、わずかだが代々保有している山では、山菜などの山の恵みが採れる。質素極まりない暮らしを18歳まで続け、就職を機に都会に出た。「三つ子の魂百まで」のことわざ通り、都会に住んでも質素に暮らした。

やがて結婚して夫婦共働きの生活が始まった。抽選で当たった公団住宅に住み、その頃の世帯収入は年800万円ほど。毎月の黒字分が約10万円。それに私のパート代や夫のボーナスを合わせた年400万円を貯金にまわした。

月末の給料日には、パートに出勤する前に郵便局に行き、定期貯金口座にお金を預ける。その頃は金利も高く、埋まっていく通帳のページをめくるたびに気持ちが高揚した。別段贅沢をしたいとも思わなかったので、面白いようにお金が貯まっていく。

それを頭金にして住宅メーカーの家を建てたのは2000年の秋のことだ。4歳になった娘を保育園に預けて働いた。狭いながらも注文建築で土地付き一戸建ての家を建てたのは、当時、同じく家を買おうとしていた夫のきょうだいや、友達への見栄もあったことは否めない。

新築の家を見に来たみんなが、造りのよさに感嘆し、羨ましそうな表情になり、言葉を発した時、私はそれまでに感じたことのない優越感を覚えたものだった。そう、「うちはあなたたちとはちょっと違う」と上から目線で見ていたのだ。順風満帆という言葉は自分のためにあるように思えた。

今の収入なら、住宅ローンの繰り上げ返済をし続ければ、夫の定年までには払い終えられそうだ。完済すれば、退職金や年金はまるまる自由に使え、老後はお金の心配なく暮らせる。30年先の未来の余裕も手に入れた気がして、心は満ち足りていた。