新聞の広告や包装紙の裏に、忘れないようにと言葉を書き続けていた

認知症と友だちになった私

最近では、年相応の認知症と友だちになった私だが、医師から、楽しいものを探す、のんびりする、美味しいものを食べる、ゆっくり睡眠をとる、趣味を見つける、など生活習慣のアドバイスを受けている。おかげさまで食欲は旺盛で、認知症でも美味しいものだけは忘れない。だから妻には「あれが食べたい、これが食べたい」と注文も旺盛だ。

作家という仕事は、ほぼ一日中原稿用紙に向かっている。慢性的な運動不足になりがちである。肉体の老化を抑えるために、また様々な疾患を予防するために、運動不足は大敵だ。私が実践している健康法は昔から散歩だ。

散歩に出るのは、明け方と夕暮れになることが多い。人間は足から衰えるといわれるので、できるだけペースを維持して、リズムよく歩くように心がけている。大学時代は山岳部で百名山を目指していたので足腰は強く腰も曲がっていない。けれども思いがけない転倒もありえるので、ペースはゆっくり、ゆっくり歩く。住宅地の路地を抜けて駅前の商店街を巡る小さな旅だ。

散歩をはじめた頃は、コースを変えるのが面倒だったり、歩いているだけでは退屈したりしたが、認知症の今では自然に道を間違えたりするので、むしろ楽しみが増えてきている。空き地がビルに変わったり、新しいパン屋が出来たり、その変化は刺激となって認知症のリハビリにはちょうどいい。

同じ時刻に歩いても、春夏秋冬で道の表情は違ってくる。天候によって、また別の横顔を見せてくれる。早いときには一週間で、街は風貌を変えてしまう。日本の四季はいい、と改めて実感する。