『あの人が好きって言うから・・・有名人の愛読書50冊読んでみた』(著:ブルボン小林/中央公論新社)

テニスの底知れぬ醍醐味と怖さ

テニスで勝ち続けるというのは単に対戦相手との勝敗だけを意味しないようだ。好き勝手なことを報じるマスコミ(テニスは各国を転戦するから世界中のマスコミだ)や、内面の自意識ともアガシは戦い続ける。

ハゲを気にして着用していたヘアピースがよりによって全仏オープンの決勝前日に壊れてしまう逸話は滑稽だが、グランドスラム達成より全世界にハゲがバレる方が怖いという葛藤は、そこにたどり着いたものしか味わうことのない希有なものだ(若いころのアガシは、ライオンヘアーとでもいうべき長髪がトレードマークだった)。

希有な状況は活躍とともに広がる。ブルック・シールズとの交際や他の選手との戦い(舌戦含む)なども、内面の嫉妬や劣等感を隠さず(まさにOPENに)語る600ページを読めば、誰でもテニスの底知れぬ醍醐味と怖さが追体験できるし、俯瞰的な視点も持てる。

大坂さんは質疑応答で、今から冗談を言いますよ、とわざわざ前置きすることがあるが、マスコミというものに「応接」している気配がある。気づけば愛玩の眼差しを向けるマスコミや我々が、聡明な彼女の中で冷静に分析され、評価されるのだ。