母・環さん(中央)、父・レオナルドさん(右)とともに(撮影:神仁司)
2020年にUSオープンテニスで2度目の優勝、グランドスラム3勝目という快挙を成し遂げた大坂なおみ選手。現在開催中の2021年全豪オープンでも、準決勝でセリーナ・ウィリアムズ選手に勝利し、決勝進出を決めた。USオープンテニスの間には、黒人差別に反対するメッセージを発信するなど、注目が集まった大坂さん。長い間成長を見つめてきたジャーナリスト・神仁司さんが、USオープン直後につづった彼女の強さとは。父・レオナルドさん、影響を受けたボーイフレンドのYBNコーデーさん、ロールモデルとなったセリーナ選手、ともに夢に向かう仲間、尊敬する故コービー・ブライアント……彼女の人間関係にも迫る

パズルのピースがすべて揃った

大坂なおみがずっと抱いていた憧憬の実現だった――。

テニス4大大会の1つであるUSオープンで優勝を果たした大坂は、いったんベンチに戻ってラケットを置いた後、アーサー・アッシュ・スタジアムのテニスコートに再び戻り、不意に両ひざを立てながら仰向けになって、約20秒間双眸を見開きじっと空を見つめた。

歴代チャンピオンたちが優勝の瞬間コートに横たわって眺めた、初秋を感じられるニューヨークの高い空を、大坂も目にしてみたかったのだ。新型コロナウイルスのパンデミックの影響で無観客試合のため拍手も歓声もなかったが、大坂にとって優勝の実感をかみしめるような大切な時間となった。

2年ぶり2度目のUSオープン優勝は、大坂が、プロテニスプレーヤーとして「心技体」すべての面で成長したことを証明したタイトルとなった。

テニスの技の向上は、2020年シーズンから大坂に帯同しているウィム・フィセッテコーチによる功績が大きい。

「勝つことばかりにフォーカスすると、物事は間違った方向に行きます。コートで必要なのは、試合に臨む姿勢、ゲームプラン、ポジティブなエネルギー。これらがパズルを形成する一つひとつのピースとなって揃った時に、勝利はついてくるのです」

このフィセッテコーチからのアドバイスを素直に受け止めた大坂は、コート上で見事なベストパフォーマンスを披露してみせた。

また、新たに中村豊トレーナーを招聘して体力面を鍛え直した。彼とのフィットネストレーニングの成果が実り、大坂のコート上での動きはさらに良くなり、質の高いボールを試合の最初から最後まで打ち続けることができた。