2020年USオープン女子の表彰式。2度目の優勝を果たし、トロフィーに口づけする大坂なおみ(写真提供:アフロ)

「私は、今では以前と違う人かもしれませんね」

そして、大坂の優勝をもたらした一番の要因になったのが、彼女の心の成長だ。

新型コロナウイルスによる女子プロテニスツアーの中断は、5ヵ月に及んだ。誰もが予想しない形でテニスができなくなった時間に、大坂は自分自身を見つめ直して、自身のSNSでシャイな自分とは決別すると宣言。ツアー復帰戦を迎えた時には、「私は、今では以前と違う人かもしれませんね」と、過去の自分とは変わったことを自ら吐露した。

そんな大坂が、USオープン前戦を戦っていた8月23日に、アメリカ・ウィスコンシン州で白人警官による黒人男性銃撃事件が起き、彼女はつき動かされるように行動を起こす。

まず、準々決勝の会見を終えた後に、自身のエージェントのマネージャーに相談し、さらに女子プロテニスツアーを統括するWTA(女子テニス協会)のスタッフとも話をした後、翌日はプレーしないことを伝えた。

もとよりボーイフレンドのYBNコーデーさんの影響を受けて、黒人人種差別に抗議し、《Black Lives Matter》のムーブメントにも賛同して、自身のSNSで自分の意見を主張してきた。コーデーさんは読書家で、大坂は、人種差別に関する本をコーデーさんから借りて知識を得て、抗議活動にも一緒に参加していた。

それだけに、今もなおアメリカにはびこり続ける、歴史的に根の深い「黒人人種差別を背景に起こった出来事」を到底看過できるわけもなく、抑えきれない怒りと悲痛な叫びをSNSにつづった。

「私は、アスリートである前に黒人女性です。今は私のテニスを見てもらうよりも、一人の黒人女性としてすぐに対処しなければならない、より重要な問題があるように感じます」

大坂の表明を受けて、WTA、ATP(男子プロテニス協会)、USTA(アメリカテニス協会)が共同で声明を発表し、USオープン前哨戦を一時中断、8月27日に準決勝を行わないこととした。大坂の勇気ある言動が、ついに大きな組織をも動かした形になった。