2020年USオープン女子の決勝戦。大坂は黒人差別の犠牲者となった少年の名前が入ったマスクを着用した(写真提供:アフロ)

自分がすべきことをしようとしただけ

もともと内気な性格で、「オーバーウォッチ」といったプレイステーション4のゲームや『ワンパンマン』という日本のアニメが好きで、アニソンも好きな大坂。彼女がこんなに大きな行動を起こせるとは正直驚きを禁じ得なかったが、「違う人になったかもしれない」という大坂の自己分析を思い出すと納得できるものがあった。

だが、周りの大きな反響とは裏腹に、大坂自身は謙虚な姿勢を崩していない。あくまで人道的な立場から人権問題に対してアクションを起こしたのであり、決して政治的なメッセージが含まれているわけではなかった。Zoomでのインタビューでこう答えている。

「勇気あることだなんて感じていないわ。自分がすべきことをしようとしただけです。私の言動によって、まず(人種差別への)気づきをもたらしたいです。そして、人々が議論してくれたらいいですね。それが私の思い描く理想です」

大坂の人種差別への抗議活動はUSオープンでも続き、毎試合入退場時に、黒人差別にまつわる不幸な事件で亡くなった犠牲者の名前がプリントされたマスクをつけた。このような行為は、通常ならプロテニス大会で認められない。

だが、2020年USオープンでは、「Be Open」というキャンペーンが展開されて、人種、ジェンダー、SOGI(性的指向・性自認)などへの公正や平等のメッセージを身につけることがグランドスラムで初めて許可された。《Black Lives Matter》がきっかけになっているが、政治的なメッセージやヘイトスピーチでなければ、大会期間中に試合前後で選手からのメッセージの発信が認められた。

この時大坂は、負けられない十字架を背負うことにもなった。もし負ければ、テニスに集中していないからだと批判が起こるのは目に見えていたからだ。追い詰められるきわどい試合もあったが、大坂は見事に立て直してみせて、当初の目的どおり7枚のマスクを披露した。

終わってみれば一連の抗議活動は、「あらゆることが、私をより良い方向へプッシュしてくれた」という大坂の優勝への原動力になったのは間違いなく、同時に、彼女を選手としてだけでなく、人として精神的にひと回り大きく成長させたのだった。