そうして1年半が経って、親父は死んだ。あの時のオレの判断は正しかったのか今も考える。もしオレがヒーローで、いくらでも借金を肩代わりできてたら親父は死を選ばなかったんじゃないか、とも思う。

でも、あの当時は自分の家族だけで精一杯だった。それに一時、姉に金を貸したとしても、あの泥沼状態はエンドレスで続いただろう、と思うよね。

葬儀のあと、親父の部屋を片づけていたら、金の出し入れを書いたメモがたくさん出てきた。親父は若い頃、証券会社に勤めていたこともあって、帳簿をかなりマメにつけるタイプだった。見て驚いたよ。姉夫婦が親父に借金の尻拭いをさせていたのは知っていたけれど、それはもう信じられない額だった。

姉のダンナがカードで限度額いっぱいまでキャッシングする。親父がそれを返済する。繰り返し返済すれば、借りられる限度額はどんどん上がる。そしてまた借りて……。そんなふうにして姉のダンナが焦げつかせた多額の借金を、親父が全部返し続けていたんです。

 

今度はお袋に取り入り出した

両親が茨城で老後を何十年も過ごせるだけのお金は十分にあったはずなのに、貸借対照表の最後を見ると蓄えはすっかり底をつき、それどころかマイナス120万円になっていた。親父はこれを気に病んで、衝動的に飛び降りたのではないか……。

なのにさ、張本人たちはとぼけてんだよ。「お父さん、なんで……」って泣いて悲しんじゃってる。オレは姉のダンナを呼んで、帳簿を突きつけた。「これを見ろ! おまえが親父を殺したんだ!」って。相手は土下座をしたけれど、まあ、それだけよ。そんなダンナから姉は離れられない。つまり、こっちはこっちで夫婦で共依存っていうわけさ。

相談に乗ってくれたのは、母の弟にあたる叔父さんだった。ガンで闘病中の身にもかかわらず、「盗人に追い銭じゃないけど、あいつらはもういい。俺たちで処理しよう」と、120万円の清算を一緒にしてくれた。それを機に、オレは姉ときっぱり縁を切ることにしました。宣言もした。死を選ぶまで親父を追い詰めた姉たちを、断固として許せなかったから。