『フルーツポンチ  村上健志の俳句修行』著◎村上健志 春陽堂書店 1980円
今注目の書籍を評者が紹介。今回取り上げるのは、村上健志さんのフルーツポンチ村上健志の俳句修行』(春陽堂書店)。評者は詩人の渡邊十絲子さんです。

「剣の初心者」がいきなり道場破りを

中高年にまじって若い歌手や俳優も俳句を作り、採点されて一喜一憂するさまを見て楽しむ時代が来るとは、ちょっと意外だった。MBSのバラエティー番組『プレバト!!』の功績は大きい。俳句を添削してもらうなんて、オトナになって初めてわかる楽しみではないのか? とはいっても、わたしも(俳句ではないが)詩の厳しい添削を毎週受けて、ごはんが喉を通らなくなりながら改作してはまたダメを出される繰り返しの青春だったので、そうした経験がいかに人生の宝物になるかは身にしみて知っている。

この番組でめきめき俳句の腕を上げたひとりが、お笑い芸人の村上健志だ。出演一回や二回ならともかく、常連となったらセンスだけではのりきれない。俳句世界特有の「常識」を学び、それが「自分を縛るめんどうなルール」ではなくて「自分の実力に下駄を履かせてくれるアシスト」であることに気づくまで、とことん人に直してもらう必要がある。

ここのところが誰にとっても最初の壁になるわけだが、村上健志はなかなかの「剛の者」のようである。さまざまな句会につぎつぎ参加しては、見知らぬ人々の批評に自作をさらしていく。剣の初心者がいきなり道場破りに出かけるようなもので、たいへんな勇気が必要なはずだ。

しかし著者は吟行で〈空掴むごと裏返る風の蓮〉という写生ができ、想像で〈タイ緩めつつOBのラガー来る〉と言える、りっぱな実力を見せた。修行先は、結社「ホトトギス」の流れを汲む「車の会」や、新宿歌舞伎町を根城にする俳句一家「屍派」など多数。連句の会にも参加した。得意の言いわけ芸は見せずに、先輩たちに正面からぶつかっているのがすばらしい。俵万智、又吉直樹との対談も収録。