石崎 知人のお母様は「私の財布を盗ったでしょう」と言い出すなど、金銭に対する執着が強くなってしまったそうです。
また、穏やかな性格だったのに、暴言を吐いたり、暴力を振るったりするようになったといったケースも聞きました。
浜崎 「周辺症状」と言われる症状で、一概にはいえませんが、金銭に執着するかたは過去にお金で苦労された経験があると考えられます。
穏やかな性格だったのに、「バカヤロー」などと言いながらつかみかかってくるようになったというケースでは、認知症になる前は、怒りを理性で抑えていた、つまり、我慢していたということが考えられます。
石崎 ご本人にとっても、家族にとっても切ないですね。
浜崎 インフォーマルケアコスト(家族が負担する治療や介護にかかる経費)が家計を圧迫する、親が認知症になり介護離職をせざるをえなくなる働き盛りの人が増えるといった問題もありますが、もっとも深刻なのは、認知症の患者さんが差別を受けることです。
「あの人は認知症だから」といって無視されたり、軽んじられたりするのは、人間の尊厳を尊重することに反します。
石崎 そうですね。「自分もいつなるかわからない」と、想像力をもって寄り添う必要があると私も強く思います。
なぜ、文字トレが認知症にいいのか
浜崎 認知症は、突如として「記憶障害」や「失認」といった深刻な症状に陥るというわけではなく、個人差はありますが20年くらいかけて徐々に進行していきます。ですから、認知症かどうか、本人も周囲の人たちも気づかないことが多いのです。
石崎 そんな発見しづらい状況のなかで、書き文字は初期の認知症を見抜くことができます。 つい先日も、会社員として現役で働いておられるかたの文字を見て、「物忘れが激しくないですか?」と聞いたら、「そうなんです!」と。そこで文字の改善指導をしたところ、日に日によくなられました。
浜崎 素晴らしいですね。文字から認知機能低下を早期発見できるということは、
早期治療に通じます。