石崎 先生は「認知症バイバイ体操」を発案されていますが、脳の血流を増やすためには、呼吸を整えながらゆっくりと行うことがポイントだと。文字を書くことと同じだなと思いました。
浜崎 私は手書きで文字を書くことも運動のうちだと捉えています。指先を動かすことで脳に刺激を与え、血流をよくすることが期待できるのです。
石崎 医学的に見て、文字を書くことで認知症を改善することは可能だといえますか?
浜崎 文字を書くことで完全に認知症が治るというのは考えづらいです。
そもそも、子どもの名前を思い出せないところまで症状が進行しているかたの多くは、文字を書く行為自体ができないことが多いですから。
ただし、初期の認知症であれば、文字トレをすることは、とても有効だと考えます。認知機能低下を早期に発見し、適切な治療に導くことが可能だといえるでしょう。
まずはなによりも予防が大切――
浜崎 ここへきて、脳科学の世界では「リコード法」に注目が集まっています。アメリカのデール・ブレデセン博士らが提唱する「体の炎症を抑え、毒素を体外に出す」という脳機能を回復させるための新しい治療法で、これまで治らないといわれていた初期のアルツハイマー患者の9割以上が改善したという報告もあります。
石崎 医学の進歩は心強いですね。
浜崎 とはいえ認知症に限らず、病気は予防することがなによりも重要です。 問題は、 現代人がメールなどの便利なツールを手に入れたのと引き換えに、文字を書くことで脳を鍛えるという術(写経などが良い例)を失ってしまったことです。
石崎 近頃は年賀状もパソコンを使って印刷しますものね。ですが、たとえば、昨年父から届いた年賀状の文字は正常だったのに、今年の年賀状の文字は震えているといったように、本来は文字の変化から病気の可能性を疑うことができます。
浜崎 おっしゃるとおりです。現代人の遺伝子には、紀元前から象形文字を用いて伝達をしてきた情報が残されています。
手で文字を書くことは、五感を複雑に利用して文字を完成させるため、キーボードを打つという指先だけの触覚を利用する行為よりもはるかに脳の複数の箇所を刺激します。
しかも、手書きは、自分の書いた文字が正しく書けているかを確認する行為もともなうため、脳の複数の領域(前頭葉、頭頂葉、後頭葉、視床、小脳)を同時に活性化します。 脳の複数の領域のネットワーク強化をしながら記憶できるため、画面のタッチやキーボードのタッチよりも情報を長く脳に保持できるのです。
石崎 説得力のあるお言葉をいただき、嬉しいです。文字による「認活(認知症予防活動)」や「手書き文字活動」には大きな意味があると、あらためて確信することができました。