「お客様にちゃんと届けるのは、実はいちばん大変なことですし、僕は器用なタイプではないので、とにかく精いっぱい稽古して、精魂込めてやっていくしかないと思っています」

感情の起伏が表現しやすくなった

――共演者のひとり、卯之吉を想う美鈴役の新川優愛さんによると、「撮影現場での隼人さんこそ終始笑顔で現場を和らげていた」という。さらには、隼人さんと話していると誰もが笑顔になり誰もが彼を好きになっていったとか。多くの人に愛される人柄が、ドラマ作りにどんな影響をもたらしたのか。


『大富豪同心』のパート1が終わったときに、パート2をやりたいという声がキャストからもスタッフからもたくさんあったんです。プロデューサーさんも、「出演した役者さんたちがこんなにパート2をやりたいと言ってくれる作品っていうのも珍しいよ」とおっしゃっていたので、本当にありがたかったですね。

きっと自分が頑張っていなかったら、《次》はなかっただろうと思うので、やはり、いただいた仕事をちゃんとやることが大事なんだな、と改めて感じました。

だから、今はあまり先のことは考えていません。よく、歌舞伎で憧れている役や今後やりたい役を聞かれるんですが、そこにたどり着くには、まず今いただいているものに対していかに真剣に向き合うか、いかにお客様に響くものを作るかを大切にしなければならないと思っているんです。

お客様にちゃんと届けるのは、実はいちばん大変なことですし、僕は器用なタイプではないので、とにかく精いっぱい稽古して、精魂込めてやっていくしかないと思っています。

ただ、これも褒めていただいてうれしかったことなんですけど、『大富豪同心』のパート1のあと、スーパー歌舞伎II『新版 オグリ』でご一緒した浅野和之さんに、「芝居が緻密になった」と言っていただいたんです。「どの表情もその役になっていた」と。浅野さんとはスーパー歌舞伎II『ワンピース』でもご一緒していましたから、その方がそうおっしゃってくださったのはうれしかったですね。

歌舞伎の芝居はわりと、繊細じゃないところで表現することが多いと思っているので、そういうところに着目していただけるものなのかと、意識するようになりました。

確かに、映像でお芝居をしたことで、感情の起伏が表現しやすくなったとは感じます。歌舞伎では、「ほかの人が話しているときは書割になっていろ」と教えられるんです。だから先輩方は、黙ってじっとして、お腹の中でぐるぐると感情を回しながらその役になっていく。

それは本当に難しいことなんですけど、映像の仕事で、相手の台詞を聞いているときの芝居が大事なんだと教わったことで、歌舞伎でも無言のときの感情がわかるようになった気がします。同じ歌舞伎の台本を読んでいても、前とは違う読み方ができるようになってきたなと思います。