死後の準備、するかしないか
上野 ご自分がいなくなった後の準備はなさっていますか?
澤地 一応、遺言状は書いていますが、妹には子どももいないし、法定通りいずれ弟の子や孫にいくんじゃないでしょうか。
上野 私にも姪や甥がいますが、私はその人たちに残さなくてもいいと考えています。ですからきちんと遺言を書いて、しかるべきところにいくようにし、執行人は友人を指名しております。
澤地 今年1月、親しくしていた作家の半藤一利さんが90歳で亡くなられて、すごくショックでした。その時、私が死んだら、弟や妹は残った着物や帯の処分に困るだろうなと思ったの。それで着物を全部処分したんですけど、二束三文にしかなりませんでした。人間国宝の方の作品もありましたけれど。
上野 もったいない! 一声かけていただきたかったわ。
澤地 あなたが着物をお召しになるって知らなかったのよ。美術品も相続税がかかるので、安野光雅さんの絵をかなり持っていたけれど、1点を残してあとは島根・津和野の安野光雅美術館に引き取っていただきました。
上野 心配なのは資料や蔵書です。
澤地 今の時代、蔵書は貨幣価値がないから。懇意にしている古書店にお願いしようと思います。ミッドウェー海戦を書いた時に集めた個人データもすべて保管してあるけど、どうしようもない。
上野 貴重なコレクションが散逸してしまうのは残念です。引き取り手を求めているという告知をなされば、どこかから申し出があるかもしれませんよ。
澤地 いずれ死ぬのだし、その後、家や本がどうなろうと、もう私の知らないことだから。ただ、生きている間には言いたくないのよ。
上野 澤地さんは介護保険制度ができる前から、「私はこの家でひとりで死ぬんだ」と思っておられた。こういう人には勝てません。そして、ここまで潔い方の生き方は、あまり普通の人の参考にはならないですね。(笑)
澤地 あら、そうかしら。
上野 きっと澤地さん、この先、何かあってもまだまだ死ねませんよ。まさに不死鳥です。(笑)