掃除中に小箱を持ち上げたら…

「依頼人の本音としては、この家の家財をすべて撤去し、家を売却して、そのお金できれいな老人ホームに住まわせてあげたいと考えているようです」

と、石見さんが説明する。

「でも、本人には自分が認知症であるという認識はありませんし、いきなり家財をすべて撤去してしまうと退院後に混乱してしまうだろうと伝え、相談した結果、1階部分のゴミと思われるものの撤去のみをすることになりました。2日間整理をすれば、きれいになること間違いなしの現場です。『ザ・福祉住環境整理』の見本のような仕事をしたい」

あんしんネットでは、「介護ベッドを入れるためのスペースづくりをしてほしい」など高齢者の住環境整理を「福祉住環境整理」と呼んでいる。

例えば今回であれば「退院後に介護を受けながら通常の生活が送れる環境」が目標だ。姪の手続きによって介護認定を受けられたところのようで、本人がどうしても老人ホームを嫌がった場合は、ホームヘルパーに頼りながら、引き続き自宅で生活していくことが念頭にあるという。

私は2日目の作業に参加させてもらった。

室内に足を踏み入れた時、いつものゴミ屋敷の臭いはしなかった。玄関入って手前に和室、奥に15畳程度のリビングと、その隣に台所。すでに玄関や和室はだいぶ片付いていて、新しくベッドも置けるだろうし、人が暮らせる環境であった。

2階に二部屋あるようだが、依頼内容は1階のみだから、今日は奥のリビングとキッチンの作業が中心になるのだろう。大人の膝くらいまでゴミが積まれているものの、ションペット(尿をペットボトルに入れたもの)などの排泄物は見当たらないし、生ゴミ臭もしない。私だけでなく、ほかの作業員も「そんなに大変な現場ではないだろう」と思ったに違いない。

だが、実際はとんでもなかった。

30分ほど経った頃、リビングで働いていた男性作業員が「うわっ」と叫び声をあげた。その声につられてそちらを見て、私も同じように叫び声をあげてしまった。彼が小箱を持ち上げたら、下に2センチ程度のゴキブリが数十匹、走りまわっていたのだ。

キッチンすぐそばのリビングには1メートル四方のテーブルがあった。その上と、テーブル下にどうやら食品類が多いらしく、ゴキブリの生息場所になっているようだった。

私もその男性作業員のそばでテーブル下を片付ける。何かを持ち上げるたびに小さなゴキブリが出没する。びっしりと茶色の米粒のようなものがついたゴミも多数出てきた。石見さんに見せると、「ゴキブリの卵だろうなぁ」とつぶやく。手袋ごしでもすぐ手放したい。