カビがびっしり生えていた焼きそばが意味するもの

80代女性というと、私の祖母と同年代。祖母は若者が好むようなものは食べないが、この家では飲み干したコカ・コーラのペットボトルがいたるところに転がっている。

"赤いきつねうどん"も次々に出てくる。未開封のものもあれば、食べかけのものもある。食べかけで強烈だったのは、インスタントの焼きそばだ。

「見ます?」

男性作業員が私にその中身を見せてくれた。もはや茶色の部分は一ミリも見えない、黒とグレーの焼きそばだ。いや、カビがびっしり生えすぎていて、焼きそばのあの麺の影さえも見えない。何も知らない人にこの容器の中身を聞いたら"粘土"と答えるかもしれない。

不思議だった。住んでいた高齢女性は、インスタントの焼きそばにお湯を注ぎ、できあがって食べかけたところで、何かほかに気になることが出てきたのだろうか。そしてもう焼きそばのことを思い出すことはなく、その容器はそのままにして、そこにゴミが積み上がっていったのだろうか。

「食事内容を覚えていないのは『もの忘れ』で、食事をしたかどうか覚えていないのは『認知症』」とよくいわれるが、これが認知症の典型症状なのだと家を見て感じた。

見つかったゴミ袋いっぱいの「内服薬」(写真:笹井恵里子)

45リットルのゴミ袋に満タンになるほどの「内服薬」も見つかった。薬を受け取った日付はビニール袋に記されているが、服薬した形跡が全くない。医師には診察の時に、何と話していたのだろうか。