認知症の典型「被害妄想」

部屋からは生きようとする意欲や家主の感情を感じられない。今はきれいになったが、ゴミの中でカップラーメンを食べていた姿を想像すると、私はもの悲しい気持ちになった。

また、夫の位牌の横の壁には、こんな貼り紙があった。

〈仏壇の前より金のアクセサリーを持っていった人に罰をあたえてください。私の大切にしていた品です〉

女性は「盗難」にあったと思ったのだろうが、それも認知症の症状の一つである「被害妄想」の可能性が高い。

位牌の横にあった張り紙(写真:笹井恵里子)

そして片付けを進めるうちに、白い四角い箱を見つけた。中に小さな箱が10個程度収まっており、「ティファニー」「パール」「ダイヤ」などと赤マジックで書かれている。

やっぱり"盗難"ではなかったと思っていると、箱の角から親指大の茶色のゴキブリがにょきっと顔を出した。ひゃあっと叫んで、蓋を閉め、私は石見さんに手渡す。