坂本 はい。ただ、第一波のときは多少の混乱がありました。当時、中央区でコロナに対応している大きな病院は当院だけだったのですが、区内で発生した患者は区内ですべて対応せよということだった。でも、とてもじゃないけれど1つの病院では無理です。もういよいよ限界というところで、ようやく東京都が司令塔になって患者さんを都内の病院間で振り分けるようになりました。

 

第三波で「医療崩壊」が起きた

夏川 私の勤務する病院では、20年の年末から21年の始めにかけての第三波のときに感染爆発が起き、現場の実感としては「医療崩壊」していました。

小説『臨床の砦』には基本的にそのときに体験したことを書きましたが、当然ながら、現実そのままではありません。どちらかというと現実は小説よりももっと酷かった。本を書くときは、必ず希望を残したいと考えているので、あえてそうしました。

坂本 東京の現状に関して言うと、第四波では、大阪の大変な状況を見て、5月の連休前に先手を打って緊急事態宣言を出したことがよかった。その判断で医療現場はかなり助かっています。

でも、感染力の高い変異株が流行しているし、オリンピックで人の移動が増えることを考えると、今は何とか感染を抑え込んでいる状態なので、蓋を開けたら一気にリバウンドする心配はありますね。

夏川 私のところも、第四波に入ってからは協力病院が増えたこともあって、状況は第三波のときよりも改善されています。一方で、患者さんの症状の悪化のスピードは変異株のせいで速くなり、若年化も進んでいる。多くの患者さんに「レムデシビル」などの治療薬を使わなくてはならない。これは重症度の高い患者さんが増えていることを意味しています。

重症化したら高次医療機関に送ることになっていますが、今そちらがいっぱいいっぱい。よほどの状況にならない限り、当院で最後までがんばることになります。非常に厳しい緊張感に満ちた毎日が続いています。