記憶力とは曖昧なものである

もちろん、加齢とともに物忘れの頻度は増えるかもしれません。また情報を処理するスピードが落ちるので、物忘れをより失敗として感じやすい傾向はあるでしょう。ただ、多くの方が恐れる認知症と、加齢による認知機能の低下は、まったく別のものと考えてもらってよいと思います。物忘れの先に認知症があるわけではありません。

認知症による「記憶障害」は、20分前のことであっても忘れてしまう、というものです。これはちょっとした物忘れではありません。「昼ごはんになにを食べたか思い出せない」「さっき会った人の名前が思い出せない」ではなく、ごはんを食べたこと、誰かに会った出来事そのものを思い出せなくなるのが認知症なのです。

それに比べたら、人の名前や鍵の置き場所を思い出せなかったとしても、日常生活にさほど支障はありませんよね。相手の名前がすぐに出てこなくて、ちょっと気まずい雰囲気にはなるかもしれないけれど、それで人生が終わるわけじゃない。僕はいま44歳ですが、学生たちの名前をなかなか覚えられないので、そこらじゅうに書いて貼っているくらいです。(笑)

こうした物忘れと区別して研究されているものに、未来の予定を忘れる「し忘れ」というものがあります。「明日、〇〇さんに会う」「夕食後に薬を飲む」といった記憶は、適切なタイミングで思い出さなければ意味がない。

たとえば、僕はこの記事の取材の約束を11時にしましたが、その約束を12時に思い出したとしても、それは「忘れた」ことになるわけですから。記憶としては、難度の高いものになります。

ただ、このし忘れについて若い人と高齢者とで比較実験をすると、頻度に差がないどころか、メモや手帳を使うことで、むしろ高齢者のほうがし忘れが少なかったりする。

このように、記憶力はもともと曖昧なもの。若い人でもすべてを覚えられるわけではありません。そのかわりメモや手帳、カレンダー、リマインダー機能を使うなど、自分の記憶力に頼らない方法がたくさんありますから、その衰えを気にしすぎる必要はないのです。