「ひとつでも経験したことがある人は?」と問われ、手を挙げる学生たち(写真提供:増本さん)

 

これは、若いときに身に着けたスキルに限った話ではありません。60代、70代から獲得したスキルであっても、忘れにくい。世界最高齢のプログラマーとして知られる若宮正子さんがパソコンを使いはじめたのは60代、プログラミングは80代から、と聞いています。

獲得までの時間は若いときより多少かかるかもしれませんが、一度身に着けてしまえば忘れにくいので、「こんな年で新しいことをやってもムダ」と尻込みすることはまったくない、と僕は思います。

そもそも、認知機能が衰えることに過度な不安を抱く必要もありません。左の表を見てください。「人名を忘れる」「物品をどこかに置き忘れてくる」「漢字を忘れる」といったこれらの項目は、高齢者の40%が経験する記憶愁訴です。

これを1週間以内にひとつでも経験したことがあるか、学生たちに尋ねると、教室の9割以上が手を挙げます(笑)。最も記憶力がいいとされる20歳前後の若者でも、ごくあたりまえに物忘れをしている。そう、これは単なる「物忘れ」。そして、誰でも若いころから物忘れはしていたんですよ。

 

\高齢者の40%が経験する記憶愁訴/

● 人名を忘れる
● 物品をどこに置いたか(しまったか)忘れる
● 物品をどこかに置き忘れてくる
● しようと思っていたこと(予定)をし忘れる
● すぐ過去の出来事・言動を忘れる
● 火・水・電気周りの不始末やカギのかけ忘れをする
● 物品の名前が思い出せない
● 買い物のときに何を買うつもりだったか忘れる
● 人との約束を忘れる
● 漢字を忘れる
● 見当識障害(今日の日付が分からないなど)
● その他
(出典:岩佐一ら,2005,公衆衛生学雑誌,第52巻2号より)