イラスト:みずうちさとみ

いま、90歳を超えた日本人女性の半数以上が認知症と診断されています。女性の平均寿命が87歳くらいですから、平均寿命まで生きる女性の2人に1人は認知症になると考えられる。一方で、高齢期になってから生活習慣の改善などによって認知症を防ごうと努力しても、コントロールできるリスクは18%くらい、という研究結果が出ています。

健康的に過ごそう、と努力することは大切です。ただ「いくつになっても病気をしない」とか「認知症にならない」といった、そもそも達成が難しい健康状態を人生の目標として掲げてしまうと、加齢は不幸なことでしかありません。

加えて、うつ気分は認知機能に悪影響を与えるため、「目標を達成できなかった」ことで気分が落ち込むと、認知機能が大きく低下します。それより自分の老いを自然なものとして受け入れたほうが、幸せな人生が送れるのではないか、というのが高齢者心理学の研究者としての僕の考えです。

 

努力が足りなかったから衰えるわけではない

メディアは、健康で長生きをするための食事法や運動法を盛んに提供しています。そういった健康法の情報量に比べて、年をとったら体の機能はどう変わっていくのか、心にどんな変化があるのか、という老いへの理解を深める情報は非常に不足しているように感じるのです。

「Aを食べれば病気にならない」「Bをすると、老化を食い止められる」という情報が溢れると、病気や老化は個人の努力の問題になってしまいます。それが若い世代に「老いは努力が足りなかった人のもの」というネガティブなイメージを植えつけ、高齢者に自信を失わせる要因のひとつになっているのではないでしょうか。