若い人が高齢者に抱くイメージには、「思慮深い」「豊かな人生経験」などのポジティブイメージから、「頑固」「みじめ」といったネガティブイメージまで、さまざまなものがあります。

ただ、こうしたイメージを抱くのは若年層だけに限らないのも事実です。特に過度に否定的なイメージを抱いていた人は、自分が高齢者の立場になったとき、「さまざまな機能が衰える」と思い込んでしまい、うつになりやすい、病気からの回復が遅い、といった研究結果も出ています。

当然ですよね。誰でもいずれは年をとるわけで、その偏見はいつかわが身に必ず返ってくる。その点においても、高齢期に対するネガティブイメージは持たないほうがよい、と僕は考えています。

若さには溌剌としたポジティブなイメージがありますが、若い人を高齢者の行動パターンと比較すると、先の人生が長いぶん、失敗や損失といったネガティブな状況を避けることをどうしても重視してしまいがちです。

一方で人生のゴールが見えてきた高齢者は、心理的に満足することを重視するため、ポジティブな情報に自然と意識が向きやすいことがわかっています。また、「幸福」は脳から生み出される主観的な気分ですが、幸福を生み出す脳の機能は加齢による低下がほとんど見られません。つまり、加齢とともに認知機能が低下したとしても幸せになれないわけではなく、むしろ幸福感は若い人と比べて高くなるのです。

特に、高齢期の幸福感は「悔いが残っていないこと」によって大きく左右されます。やるかやらないかで迷ったとき、やって失敗した感情はあとを引きませんが、やらなかったという悔いは非常に長く残ってしまう。やり直す残り時間もないので、自分の人生をいいものだったと受容できなくなってしまうんですね。だから、やるかやらないかで悩んだら、まずやってみる。それが高齢期をポジティブに過ごすための必要条件だと僕は考えています。

幸福感の話をもうひとつしましょう。800人分の一生を70年間追い続けた、ある有名な研究があります。その研究結果から、高齢期の幸福感にそれまでの人生がどのように影響を与えているかが導き出せるのですが、最も大きく関わっていたのは「人とのつながり」でした。

高齢期に必要なのは「お金」だとか「健康」だとか言われる昨今ですが、人とのつながりは健康や寿命にまで影響を及ぼします。大切なのは、多くの人とつながっていることより、質。「頼る」「頼られる」という人間関係を、いかに上手につくって日々を過ごしているか、でしょう。