その理由には思い当たる節がある。とにかく健康オタクだったということ。体にいいと聞いたものは即座に実践していた。特にテレビで見た食材はすぐに取り寄せなければ満足しない。バナナがいいと聞くとバナナ、ココアがいいと聞くとココア、青魚が、鶏胸肉が……そのたびに私は買いに走らされた。
新聞や雑誌の広告を見ては健康食品を購入するので、姑の部屋にはサプリメントや空き袋がよく落ちていたものだ。そのほかにも枕、ベルト、パワーストーンなど、健康を謳うものはとにかく電話をして届くのを待つ。
舅は半ば諦めて姑の好きにさせていたが、数年後にその舅も亡くなっていた。
毎朝の〈エスコート〉に「胸キュン」の日々
80歳を過ぎてから、さらに姑を元気にさせる出来事があった。それは「胸キュン」だ。きっかけはデイサービスだった。最初は「年寄りばかりの集まりなんて絶対にイヤ」と全否定していたのだが、介護施設の見学に誘い出してくれたのがゆう君だった。
介護ヘルパーのゆう君は30代で落ち着いた佇まい。優しい言葉と柔らかな物腰で、真面目な印象は姑の好みにピッタリだった。彼のエスコートのおかげで姑は考えが一転し、翌日から週に3~4回デイサービスに通い始めたのだ。
朝のお迎えを玄関で待つ姑の後ろ姿は可愛かった。ゆう君に手を引かれて満足そうに車に乗り込む姿はまるで乙女のよう。お迎えが別のスタッフだと明らかに不服そうに足取り重く車に乗り込んだ。どちらにせよ、見送った後、家族は解放感を存分に味わえた。
当時デイサービスに通うのは圧倒的に女性が多く、それが姑の競争心をあおった。最初に化粧品を買い揃える。それまではクリームだけで済ませていたが、化粧水からファンデーション、口紅、香水に至るまでひと通り鏡台に並べるように。
鏡に向かう姑は活き活きとし、額のシワを気にしては高価な化粧品を惜しみなく擦り込んでいた。指輪をしている人がいれば、さらに目立つ指輪をする。別の人のスカーフが気になると、負けじと派手なスカーフを身に着けた。負けず嫌いがさらなる元気を生んでいたようだ。