ブレイディみかこさんが『婦人公論』で連載している好評エッセイ「転がる珠玉のように」。第1回は連載タイトルにもかかわる「珠玉の世界」。ある日、息子にTシャツをプレゼントされたブレイディさん。胸元に書かれた「Life is rocky when you're a gem.」という文字が気になります。gemってなんだ?(絵=平松麻)

あなたは本物のgemだった

クリスマスに息子からTシャツをプレゼントされた。目が覚めるような真っ赤なTシャツで、左の胸のあたりに黒い文字で小さなロゴが入っている。いや、ロゴというよりはスローガンだろうか。でも、何かを訴えるスローガンというより、誰かの独りごとか愚痴のようにも読める。

Life is rocky when you're a gem.

rocky……、それは岩だらけで平坦でなく、つまり困難や障害が多いという意味だ。確かにわたしの人生を言い当てていないこともない。しかし、むしろ気になったのは後半のgemである。

というのも、わたしはこれまでの人生で何度もこの言葉を人様に贈られてきたからだ。英国では、何かの仕事をやめるたび(わたしは数えきれないほどそうしてきたが)、リーヴィング・カードを貰う。バースデーカードやクリスマスカードのような形態のものに、同僚や上司なんかが「元気でね」とか「寂しくなります」とか書き込んだものである。で、わたしがそのようなカードを貰うたびに必ず書かれていたのが「あなたはうちの事務所のgemでした」とか「あなたは本物のgemだった」という言葉だ。

gemみたいな人間ってどういう意味だ? と不思議に思った。

gemはgemstone(宝石)の短縮形だ。ということは、宝石みたいな人? いや、わたしはそんな輝かしい人物とは真逆の地味キャラである。ということは、皮肉? 英国人特有のブラック・ユーモアか? 最後の最後まで人をこんなジョークでいたぶろうとはいい根性である、と呆れて同僚の名前を見ると、あんまりそういうことをしそうな人たちではない。