クリニックのデイケアに通い、社会との接点を探り…
小林さんは命を絶とうとした。だが当日に電話で話した友人が異変に気づき、知人に様子を見に行ってもらったところ、小林さんは室内で倒れていた。救急車で大学病院に運ばれ、3日間意識不明で生死の境をさまよったが一命をとりとめた。
その後、精神科病院への入院などを経て再就職を目指すが、何度も挫折したという。
「退院してから10年ぐらい、実家で母親と暮らしていました。引きこもりで10年というのは本当につらいので、自分でもまた働きたいとずっと思っていたんです。でもちょうどリーマン・ショックの後で不況が続き、『障害者』である私はアルバイトすら面接で落とされてしまう。これから一生ここで母親と暮らすのだと思ったら絶望感がすごくて……」
体も心もボロボロになっていった。あるとき、このままでは本当にダメになると感じた小林さんは、実家を出る決意をする。生活保護を受けながらクリニックのデイケアに通い、少しずつ社会との接点を探っていった。
そして10年ほど前にNPO法人の事務職を得てからは、一度も自殺を試みていない。
「今日は面倒くさいから仕事に行かずに寝ていたいとか、辞めたいと思うことも時々あります。それでもやはり今の自分を生に繋ぎとめてくれているのは仕事であり、お金だと思う。働いていれば人との縁も自然と増えていくようにできていますし。だから働きたい人がちゃんと全員働けるような世の中になってほしい、と心から思うのです」
今、小林さんはコロナ禍で追い詰められる女性たちのことをとても心配している。
「私自身もいまだに非正規雇用だし、最初の緊急事態宣言のときはお給料が10%カットになりました。それでも事務職なので影響は少ないほうです。接客や対面サービスの仕事は圧倒的に女性の割合が多いけれど、コロナ禍で宿泊、飲食、小売業などが打撃を受け職を追われる人も増えました。私の友人にも解雇された人が何人もいます。また、医療、介護や保育などにもしわ寄せが行って労働環境がよりハードになっている。こうした仕事は社会を支える一番大事なものなのに、相変わらずお給料が低いうえ、まったく保障が行き届いていません」
こうした現実が女性の自殺急増の裏に横たわっている。