一人で何とかしようとしないで

では身近な人が自殺をほのめかしたり、うつ状態にある場合はどう対応したらいいか。これに対してはカナダの自殺予防グループがまとめ、日本でも普及している「TALK」の原則が参考になると内田教授は言う。

「Tell(話す)は相手に心配していることを伝える。Ask(訊く)は『死にたいと思うことがあるか』『何を悩んでいるのか』など尋ねる。Listen(聞く)は相手の話を傾聴する。Keep Safe(安全確保)はその人を一人にしない。そのうえで医療や相談機関につなげること。自殺をほのめかされたり相談された場合、決して一人で何とかしようとせず、専門家に援助を求めるのが鉄則です」

前出の小林さんは学生時代からうつ病を患っており、医療費を支払うのにも苦労した経験がある。

「うつ病は慢性疾患なので、手続きをすれば医療費の自己負担が大幅に軽減できる自立支援医療という仕組みを利用できます。私は最初それを知らず3割負担のままだったので、一度の通院で3000円ぐらいかかって大変でした。思えば、私はいわゆる情報弱者だったんですね」(小林さん)

日本の福祉行政は基本的に「申請主義」だ。いろいろな制度があっても、本人がそれを知っていて自ら申請しないと恩恵を受けられない。

また小林さんは、生活保護を受けながら社会復帰を図った。だが日本では生活保護に対する偏見もまだまだ少なくない。

「生活保護はネガティブなイメージが強いけれど、本当はすごくよい制度だと思うんです。生きるための最低限を保障してくれる。受けたらずっと抜けられないわけではないのですから、たとえば女性が離婚して新しい仕事が見つかるまでの合間とか、失業保険が切れて使えないから受けるなど、もう少し楽な気持ちで使ったらいいのではないかと思います」と小林さん。

今はさまざまな支援策も増えている。当事者でなければその絶望感は理解できないかもしれない。だが追い詰められたと感じたときにも、少しだけ立ち止まり、生きる道もあるかもしれないという選択肢に気づいてほしい。