本当に来るとは思っていなかった

真田 僕もお酒の席で先生に弟子にしていただきましたが、結構酔っていらしたので、覚えていらっしゃらないんじゃないかと心配していたんです。

 「お前面白いな。俺の弟子になるか?」って言葉は酒が言わせたんだ(笑)。まさか本当に来るとは思ってないからさ、今どきの若いもんが。嬉しかったよ。

真田 僕は2011年、東日本大震災の被災地で小学生の女の子が民謡を歌う姿に心を打たれて歌手になろうと決めたのですが、道は険しかった。先生に声をかけていただけて、幸せでした。

 いろいろ試行錯誤していたんだよな。

吉さんのプロデュースアルバム『真田ナオキの世界』レコーディングの様子(撮影◎真田さんスタッフ)

真田 はい。当時の僕の声は細くて特徴もない。悩んだ末に、声をつぶすことにしたんです。海辺で叫んだり、唐辛子をたくさん食べたり、日本酒でうがいをしたり。歌の先生には怒られましたが、貫きとおしました。

 さっき「今どきの若いもん」って言ったけどさ、歌に懸ける思いの強さはたいしたものだよ。

真田 そのおかげで、歌手の道が開けたのかなと思っています。

 つくづく思うけど、人生はいつ誰と出会うかだね。俺は、上京したとき歌のレッスンをしてくれた作曲家の米山正夫先生と、売れてない時期に出会った、歌手の千昌夫さん、この2人のおかげで今がある。千さんなんか、「俺ら東京さ行ぐだ」のレコーディング費用を出してくれるわ、借金を抱えていた俺に金を貸してくれるわ……。しかも後日その金を返しに行ったら、「嫁さんに何か買ってやれ」って、そのまま渡してくれたんだから。

真田 粋な方ですねえ。

 再来年にはデビュー50周年を迎える俺を、「元気か? フラフラ飲み歩いてるとコロナに罹っちゃうから気をつけろよ」って、昔と同じように心配してくれる。そういう《親父》がいるのは本当にありがたいし、嬉しいことだよ。

真田 本当ですね。