大きなものから手放してみた
中尾 わが家の場合、「まず大きなものから片づけよう」と考えたのもよかったんじゃないか。
池波 そう、大病をきっかけに遺言状を書き、公証役場で手続きをして。次にお墓を建てました。
中尾 役者になるときに実家を弟に任せたから、墓は自分で用意したいと思っていたんだ。素朴な石を横に3段積み上げたデザインは、我ながらよくできたと思ってる。
池波 お互いの親や家族のために作ってくれて感謝しています。
中尾 遺言状を書くときに、自分たちの持ち物を一つ一つ書き出したのも役立ったよな。そうでもしないと、今後自分たちに必要か不要か、処分すべきか手元に残すべきかも把握できないだろう。
池波 それで3軒ある家のうち、2軒は「もう必要ないかもしれない」と思えるようになったのよね。
中尾 30年前に木更津の実家の土地に建てたアトリエは、以前のように年中は通えなくなっていた。また、建材をイタリアから取り寄せたものだから、不具合を直すのに500万円かかると言われて。
池波 悩んでいたとき、ちょうど不動産屋さんから「売却しませんか」と声をかけられたのよね。査定してもらったら、売却価格は一軒家を壊して撤去する費用とほぼとんとん。でも持っていたって、固定資産税が出ていくばかりだし。
中尾 「アパートに建て替えれば儲かる」と言われたけど、うまい話があるわけがないと一蹴したよ。
池波 沖縄のマンションは休暇を過ごす大切な場所だったけれど、着いた当日は掃除だけで1日つぶれちゃう。あなたは「俺がいたら邪魔だろう」って、すーっとサウナに行っちゃうし。ホテルに泊まったほうがラクという結論が出た。
中尾 手放して惜しかったという気にはまったくならないね。その場所で思い切り仕事もして遊んで、楽しみ尽くしたからだと思う。
池波 そう! それって、ものを手放すときにとても大事な考え方じゃないかしら。「買ったときに高かったから」「いつかまた使うかも」なんてうじうじ考えていると、いつまでたっても片づかない。
中尾 自作の絵や骨董コレクションもそうやって整理した。まず家を手放したことで、終活と片づけにはずみがついたんだな。