目の前の家族と、電話の音が結びつかない
内田 私が働いている千葉では、20年6月ごろのほうが大変だったかも。ショートステイの利用者の方が発熱して救急車を呼んだら、コロナの疑いがあると言われて受け入れ先が見つからず、車内で1時間待たされてしまって。
坂本 いま都内の救急搬送は数時間待ちが当たり前という状況で。担当する方が発熱したらどうしよう、とハラハラします。私の場合、最初の緊急事態宣言の期間中、個人のお宅を訪問していいのか、とても悩みました。利用者さんは待っているけど、自分がウイルスを持ちこんでしまうんじゃないかと。
上司に相談しても、「熱がなければ状況に応じて行ってください」となる。そもそも、国や自治体の基準がいまなおはっきりしておらず、現場の判断に任される部分が多すぎませんか? いざというとき、すぐに決断しなければ、利用者さんの命が失われてしまうかもしれないのに。現場にいる私たちの責任が重すぎる。
藤井 お互いにワクチン接種を終えていても、感染リスクがあることは変わらないですもんね。私がずっと悩まされているのは、面会時の対応です。入所者が90名近くいるので、お看取りの特別面会でもない限り、面会は月に一度くらいに制限せざるをえません。
以前は頻繁な面会を心がけていたご家族の不満が溜まっているのを感じます。「面会回数を増やしてほしい」と頼まれてお断りしたところ、「会わせてもらえないんだけど!」と市役所に抗議の電話をされたこともありました。
内田 特養での面会は、どういう形でしているのですか?
藤井 窓越しです。ガラスが挟まると声が聞き取りにくいので、お互いに携帯電話を使って。でも認知症の方は、目の前にいるご家族と、電話の声が結びつかないんですね。だから、「いまお客さんが来ているから、電話を切るわね」なんておっしゃって。横にいる職員が「お客さんじゃなくてお子さんですよ」とご説明しても、わかってもらえません。
内田 時間もかかるし付き添いのスタッフもつけなくてはいけないから、面会の機会が減ってしまうのは仕方ないですよね……。
藤井 携帯電話やZoomなどを使ったオンライン面会なども実施していますが、これまた一苦労で。テレビを見ていると思ってしまうのか、黙って画面を見つめるだけで、会話をしてくださらないんです。
内田 私のところでも遠くにお住まいのご家族のためにオンライン面会を導入したものの、利用者のご家族もご高齢ですから、スマホやパソコンに慣れておらず、なかなか広まらなかったです。