2017年8月、上野の美術館へ行ったあと、久しぶりの外食を精養軒で
長年にわたり認知症を研究し、早期発見のための「長谷川式簡易知能評価スケール」を開発した専門医の長谷川和夫先生が、自ら認知症であることを公表したのは2017年10月のことです。その後も長女まりさんのサポートを得ながら講演活動を続けていましたが、コロナ下のいま、どのように過ごしているのでしょうか。まりさんに伺いました(構成=内山靖子)

「母と暮らしたい」が父の強い希望

父は2020年9月から、都内の有料老人ホームで母とともに暮らしています。入居の理由は、認知症が悪化したからではありません。父はもともと心臓に疾患があり、8月に体調を崩して入院したことをきっかけに、24時間の在宅酸素療法が必要になったのです。

退院後、父に自宅で療養してもらうことを母は考えたようですが、認知症を抱えた90代の父と、カートなしでは歩けない80代の母の2人暮らしは、心配なことがいっぱい出てきて……。看護師さんやヘルパーさんの手を借りるにしても、コロナ禍でしょう。さまざまな方が自宅に出入りするのは避けたほうがいいだろうと考え、看護体制が整っている老人ホームに入居することを決めたのです。

父は「瑞子と一緒に暮らしたい」と、母との生活を強く希望しました。これを母が納得するまでが大変で……。「50年以上暮らした自宅を離れたくない。悪い夢を見ているようだわ」――その気持ちはよくわかります。でも最終的には、母も父の意思を尊重してくれました。認知症になっても父と母の信頼関係はゆるがなかったし、21歳で結婚して以来、母は常に父のことを優先してきたので、希望をかなえてあげたいと思ったのでしょう。

今年で92歳になった父ですが、ホームに面会に行くと、眠そうにしている時間が増えたと感じます。それでも、館内で行われている体操には毎日積極的に参加し、好物のカステラを食べたいからと苦手な歯医者さんで入れ歯も作りました。最近は大好きな映画「男はつらいよ」シリーズのDVDを観て過ごすのが、一番の楽しみになっているようです。