55歳になった6月12日にはバースデーコンサートを、観客数半分とはいえ開催することもできました。時節柄控えめではありましたが、コールアンドレスポンスのありがたさを噛みしめて感激しきり。なにしろ事実上、初のワンマンショーだったものですから。

コンサートのタイトルは「宮本浩次縦横無尽」。自分で作ったソロ曲だけでなく、東京スカパラダイスオーケストラや椎名林檎さんとのコラボ曲も歌いたいし、エレカシの歌やカバー曲もちりばめたいと考えていて。

すると自然、楽曲のジャンルが多岐にわたり、昭和から平成、令和へと時代を超え、男心を歌ったかと思えば女心も歌うし、失恋ソングもあれば希望の歌もあるといったことになるわけで、ふと「縦横無尽」という言葉が降りてきた。降りてきたなんて言うと大上段に振りかざすようでダサいんですけど……。

今の自分のありようにハマってるぞ、と気に入って、ソロ活動第3弾となるニューアルバムのタイトルも『縦横無尽』にした次第です。

 

行き場のない心の叫びをあげていた暗黒時代

全体に明るいトーンのアルバムに仕上がりました。自分の意に反して。

たとえば「光の世界」という曲は、報われなかった20代の頃の自分の視点で作り始めたんです。当時、私は「男たるもの戦って光を勝ち取るんだ」とやたらと潔癖症で、休日に公園で寛いでいるような人が許せなかった。だから車を走らせながら、「ふざけんじゃないよ」と行き場のない心の叫びをあげていたんです。「光の世界」はそんな暗黒時代を描いたつもりだったのに……。どういうわけだか「ここが俺の生きる場所 光の世界」というところに着地しています。

「stranger」という曲にしても、こんなに暗い歌詞でいいのか? と逡巡しながら書きました。子どもの頃、親父がよくレコードで聴いていたシューベルトの「魔王」という歌曲には、確かゲーテの詩が使われていたような……。息子の命が見知らぬ存在に奪われてしまうというおぞましい展開で。そんな世界をイメージして作詞したはずなのに、最終的には明朗快活な歌になっている。どんなマジックが作用したのか、さっぱりわかりません。