表面化している困りごとは、あくまで氷山の一角

障害のある子どもの性に関するトラブルの背景には、以下の3つの課題がある。

1.個人的課題・・・生活習慣や対人関係の作法が身についていない、親子関係や家庭環境の問題、うつ病・不安障害などの二次障害

2.社会的課題・・・性に関する知識や対人関係の作法を学ぶ場所がない・教えてくれる人がいない、発達障害者への社会的支援の不足・無理解など

3.課題解決を困難にしている価値観や思想・・・「性や交際に関する知識は自然に身につく」という放任主義、自己責任論、公の場で性を話題にしづらい空気、性に対する忌避感や嫌悪感、障害者への差別意識など

障害のある子どもの性に関するトラブルを解決していくためには、それぞれの領域に対して、多角的にアプローチしていく必要がある。

例えば、表面化している困りごと=人前で服を脱いだり、パンツの中に手を入れてしまったり、といった行動に対して、「性に関する科学的に正しい知識を教える」という正攻法を取ったとしても、「そもそも生活習慣や対人関係の作法が身についていない」という個人的課題、「それらを学ぶ場所や機会、教えてくれる人がいない」という社会的課題、そして「公の場で性を話題にしづらい空気」が根強く残っている場合は、焼け石に水で終わってしまう可能性が高い。

そのため、発達支援(療育)を通して生活習慣や対人関係の作法を学び、専用アプリなどのICT(情報通信技術)の活用で障害特性に基づく困難をカバーし、医療的なケアを通して本人の心身の状態を整え、親の会や当事者の自助グループ、NPOなどが「学ぶ場所や機会」を創出し、メディアでの啓発や情報発信を通して「公の場で性を話題にしづらい空気」を変えていく、という多元的なアプローチが必要になる。