大人になれば親子の距離感は変わるもの。かつての守り守られる関係は、親の老いとともにどのようなパワーバランスの変化を見せるのでしょうか。今回は75歳のシズエさんのもとへ、娘のマキさんが二人の子どもを連れて戻ってきたというお話。リタイアして夫婦でのんびり老後を過ごすつもりだったシズエさんでしたが、気が付けば娘の「お手伝いさん」化していて―ー。(取材・文=島内晴美)
戻ってきた娘がいつの間にか一家のボスに
年をとったせいか、このごろ「こんなはずじゃなかったのに」と思うことが多くなったというシズエさん(75歳・仮名=以下同)。15年前、離婚して子ども2人を抱え転がり込んできた娘のマキさん(45歳)が、いつの間にか一家のボスになっているのが、なんだか釈然としない。
「娘が下の子を妊娠中に、彼女の夫が浮気したんです。夫婦で歯科医院を開業したばかりだったのに。娘の怒りは激しくて、3歳の長男と生まれたばかりの次男を連れて実家に帰ってきました」
何とかマキさんを応援したくて、庭に1LKの離れを建て、3人が気兼ねなく暮らせるように母は奮闘した。自身も薬剤師として医療機関で働いていたシズエさんは、歯科医の娘の勤務先を探し、幼い孫たちが寂しくないよう仕事をセーブしながら面倒をみた。
「派遣の歯科医として仕事も順調に入り、収入も上がった娘でしたが、実家の家計を助ける気はないみたいで、生活費もほとんどこちら持ち。もちろん、家賃を払うという発想もないようでした」
夫は年金暮らしだったが、シズエさん自身は仕事を続けていたので、経済的に困るということはない。しかし、親に面倒をみてもらうのが当たり前、と思っている娘に少しずつ不満が高まった。