サラ金の歴史を振り返る上で重要な視点
サラ金がセイフティネットを代替するという「奇妙な事態」が生まれた歴史的な背景を、新書では考察をしている。具体的には、次の二つの視点からサラ金の歴史を振り返った。
第一に、金融技術である。
金融技術とは、金融取引の確実性と効率性の向上に関わる技術全般を指す。近年は、金融financeと技術technologyを組み合わせた「フィンテック」とも呼ばれている。
金融技術は、フィンテックという言葉から想像されるようなIT技術を駆使した新たなサービスや、高度で複雑な計算に基づく金融商品の開発だけを意味しない。それは、現金勘定、帳簿の整備、契約文書の作成などの基本的な事務作業から、信用審査、資金調達、債権回収といった、金融に関わる多様な業務を含んでいる。
あたかも職人が腕を磨くように、金融機関は自らの金融技術を鍛え、事業を効率化し、収益を最大化するべく努力を積み重ねている。
かつて、高度経済成長期に生まれたサラ金は、資金力が乏しく、優良な企業と取引を行うのは難しかった。そのため、銀行や信用金庫以上に金融技術を磨き、リスクの高い零細多数の個人を顧客とせねばならなかった。
必要に迫られたサラ金各社は、これまでに幾度も金融技術の「革新」を実現している。その技術水準は、1970年代に巨大な外資系消費者金融が日本に上陸した際、これと対抗し、駆逐しうるほどの高さに達していた。
そのため新書では、サラ金企業による金融技術の革新のプロセスを、当時の時代背景や社会情勢といった歴史的文脈の中に置き直しながら、ほぼ時系列に沿って整理している。そうした作業によってはじめて、サラ金が貧困層のセイフティネットを代替するという「奇妙な事態」の来歴を明らかにできるからだ。
第二に、「人」の視点である。
日本で初めて個人に金を貸すための効率的な金融技術を編み出したのは、他ならぬサラ金の創業者たちだった。彼らはどのような歴史の上に立って登場し、何を目指して自らの企業を成長させたのだろうか。また、サラ金の従業員たちはどのように働き、利用者たちはいかなる事情から金を借りねばならなかったのか。新書では、業界に関わる一人ひとりのあり方にも踏み込んで、サラ金の歴史をたどってみた。