進む女性の解放

こうした経緯のもと、2002年に経済企画省(当時)の主管ではじまった経済改革スキーム「2025年長期戦略とサウジアラビア経済のビジョン」では、経済の多角化、民間部門の成長、生活水準・社会保障の向上に加え、女性の権利拡充が掲げられた。

紅海沿いにあるサウジアラビア第二の都市ジッダ。旧市街には古い建築も多く見られる(著者撮影)

アブドッラー国王の治世下、2005年にはじまった「アブドッラー国王海外留学奨学金プログラム」は、若年層の人材育成を図りつつ、女性を海外に派遣することで、彼女らが海外で自国の政策転換の広報役となることを期待するものであった。その後、2009年には女性初となる副大臣が任命され、2011年には女性に地方評議会への参政権が付与された。

さらに2013年には、諮問評議員(日本の国会議員に相当。ただし国王が任命し、評議会自体に立法権はない)に女性30名が初めて任命された。こうした動きは、女性の教育レベルの向上や政治参加の一歩として注目を浴びた。

加えて、労働市場への参入についても追加の措置がなされた。たとえば2013年、女性用下着や化粧品といった、客が女性に限られる店舗や売り場での男性の就労が禁じられたのである。公共の場での男女の分離を推進しつつ女性限定の雇用を創出する点で、この措置は女性の社会進出に否定的な宗教界と、女性側の双方から理解を得た。

以上の取り組みは徐々に国内に変革ムードを醸成し、漸次的ながらこれを推進する立場のアブドッラー国王への国際的な評価にもつながった。

ただし、これによって失業率という積年の課題が解決したわけではない。同国王の治世下では、男性失業率こそ緩やかに減少したものの、女性失業率は逆に上昇した。さらにいえば、先の諮問評議員任命のようなエリート女性の誕生や、公的な場での女性の活動が国内外のメディアを賑にぎわす一方、日常生活における女性への規制緩和には慎重であった。たとえば自動車運転やスポーツ観戦の解禁は、議論に上っただけでいずれも見送られた。

この状況を大きく転換させたのは、サルマーン国王の治世下で2016年4月に発足した経済改革スキーム「サウジ・ビジョン2030」である。

とりわけ2017年6月にムハンマド・イブン・サルマーン王子が皇太子に任命され、ビジョン2030の実質的な主導者となって以降、公立学校での女性を対象とした体育授業の導入(同年7月)、スポーツ観戦の許可(2018年1月)、自動車運転の許可(同年6月)、男性親族の後見人を伴わない海外渡航の許可(2019年8月)、国軍への入隊の許可(同年10月。ただし階級は軍曹を上限とする)といった、前治世下では据え置かれた一般女性への各種規制が大幅に緩和された。