実母の「もうおろせなかったから」に傷つき
仕事から帰るとNさんが落ち込んでいたこともあった。小学校で自分の生い立ちを調べる授業があった時のことだ。
「お母さんに電話で、『育てられないのに、なぜ私を産んだの』と聞いたら、『もうおろせなかったから』と言われたと。実母の不用意な言葉に傷つく子を見るのはつらいです。そして、こういうテーマを扱うときに、なぜ学校側が言ってくれなかったのか。あらかじめ連絡してください、と学校に伝えました。もう少し配慮が欲しいですね。子どもがいないときには見えなかった、教育の問題も見えてきました」
この春、高校入学を機に寮に入ったNさんは、たびたびトラブルを起こす。学校から呼び出しがかかるたび、吉竹さんは仕事を中断して行かなければならない。
「なんで噓をつくの。なぜあなたのために時間を取られて先生に頭下げなあかんのと、Nと大喧嘩になりました。そうしたら『由美さん、里親やろう。親なんだから当たり前でしょ』って。怒る気も失せて思わず噴き出しました。自分を振り返っても、思春期は悪いこともやりました。そう思えば、実子だろうが里子だろうが、子育ての大変さは変わらないですね」
吉竹さんはNさんによくこう言う。「あなたのお母さんには、産んでくれてありがとう。育てられなくてありがとう、と感謝している。だってあなたがこの家に来てくれたから」。里子をめぐり夫婦喧嘩も増えたが、何物にも代えられない日々。2年後に高校を卒業して巣立つ日に持たせてあげるため、夫は積立貯金を始めた。